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2020/02/25

『娘の友達1巻』第1話「出会い」- ディティールに注目すると見える。古都の「秘密」とは!?

自分は変態、かも

自分、筆者は、如月古都(きさらぎこと)に惚れた。

「サイコホラー」とも評される『娘の友達』(萩原あさ美著)。主人公の中年男・市川晃介(いちかわこうすけ)は、家庭と仕事から来るストレスに溺れている。そこに、娘の友達の女子高生・如月古都(きさらぎこと)が現れ、彼を救うと同時に、
奔放な言動で彼を翻弄する。彼が守ってきた日常が徐々に壊されていく様が、このような評価を生むのは、至極ご尤もなことだ。
しかしそれは、良き父、尊敬される上司として社会的に真っ当であろうとする晃介に感情移入するからこその評価であって、自分はそのようには読まなかった。古都に惚れてしまったからだ。
いつの間にか古都を考え、彼女の心理を、思考を、解釈し理解しようとしている自分に気づく。彼女の目で見、耳で聞いたことを追体験したいと想ってみる。現実の恋愛で、かつて自分がそうしていたように。
第2話以降、古都は図らずも(?)晃介を苦しめ、「俺のことどう思っているの」等と悩ませる。その苦悩を味わうのが、なぜ晃介で、自分ではないのか。羨ましいと思いこそすれ、怖いとは思わない。古都に憧憬だけでなく、脅威を覚えるような晃介は、所詮は彼女に釣り合わない哀れな中年なのだ。彼の苦悩など、どうでもよい。自分にとって、『娘の友達』を繰り返し読む価値は、如月古都に逢うことだけにある。
まあ50代にもなって、マンガのキャラクターに夢中になるとは思ってもみなかった。全く、不覚の至りで、笑ってしまう。


初回だから平和、なのか...?

「娘の友達」第1巻講談社(萩原あさ美著) 13ページから引用
古都の初登場シーンの表情。エプロンにはSHIGERUのロゴ
徐々に晃介を追い詰めていく古都はまだその片鱗を示しておらず、平和なスタートのように見える。
むしろ、課長職への抜擢によるプレッシャーや、妻の死と娘・美也の反抗的な態度、彼の努力に無理解な学校と、晃介をとりまく環境が彼にストレスを与えていることを強調する回となっている。回想シーンでは、母親から叱咤されているが、これは晃介の生育環境の問題を暗示するものなのだろうか。
古都は表情豊かで、物おじせずに気さくに話しかけてくるキャラとして描かれている。
一見して問題を抱えるのは晃介で、古都は天真爛漫、可憐で優しく、問題と無縁の、絵に描いたような(まーマンガだからそうなのだが)女子高生だ。
但し、彼女がSHIGERUで囁く時、高校で心労の晃介を気遣うとき、顔を不必要に晃介に接近させているのには気付かねばなるまい。他者との距離感が掴みづらいのかとも感じるし、「そういう女か」とも思える。美也の不登校という、大人でもしり込みするような市川家の家庭内の問題に介入しようとする辺りは、並みの高校1年生の行動力でなく、後の破滅的な行動への伏線となっている。振り返って再読すれば、すでに不穏の影はあるのだ。

喫茶店のウェイトレスとして、古都の言葉遣いは板についている。酔客に絡まれた彼女の、まだ接客に慣れていないとの言葉は、額面通りに取るべきなのだろうか。晃介に彼女を救う機会を与え、「何かお礼させてください」と借りを作り、距離を詰め、手玉にとる手管だったとみるのも可能ではないか。
第2話以降は、彼女の言動の真意は何か、彼女は真実を語っているのかと考えざるを得ない場面が続出する展開となる。そういう文脈で初回の彼女の言動を振り返ると、このような解釈も、それほど無理筋でない。接客業とはいえ、古都が初登場で晃介に見せる笑顔は、いかにもあざとい。フルページ使ってるし。


アダルトチルドレン

彼女は、いわゆるアダルトチルドレンとしての問題を抱えていることが後程分かってくる。機能不全の家庭に育ちトラウマにあえぐ古都が、筆者から見れば愛おしい。筆者の家庭は、それほど問題があったとは思わないけれど、なぜかその手の人を呼び寄せてしまい、恋愛関係に落ち、傷つけあった。彼女たちと自分が持っていた、無意識にお互いを嗅ぎ当てる力はすさまじく、それは本当に宿命的で、避けられないものなのだ。古都は晃介を見逃すはずがなく、彼女が一目見たときから、彼の運命は決まっていた...のかも。


あらすじとディティール

「娘の友達」第1巻講談社(萩原あさ美著) 9ページから引用
「八重洲中央口前」交差点の信号機の描写
亡き妻の遺影に焼香し、娘の美也を家に残して出勤する晃介。テレビに映し出された時刻は7:04。職場は高層ビル内にあるようで、課長昇進を控える。仕事帰りに、喫茶店(カップやエプロンに入ったロゴは「SHIGERU」=店名?)に寄るが、その前に「八重洲中央口前」交差点が描写され、職場は東京駅近辺であることが示唆される。
古都はSHIGERUのウェイトレスで、この日二人は初めて出会う(実は再会なのだが)。晃介に続いて入った男3人組の酔客に絡まれた古都を、晃介は機転で救う。
美也の女性教員(教室は1-A)は晃介を呼び出し、美也が不登校との認識を示して叱責する。
心労に階段で休む晃介に、古都が気づく。古都の上履きには「1-A」とあり、美也と同級。晃介の名刺を一瞥した古都は、美也と小学生のときに同級であったことを指摘し、過去の接点を晃介も思い出す。
古都は晃介の力になりたいと、Lineのアカウントを交換することを申し出る。

「娘の友達」講談社(萩原あさ美著) 第1話「出会い」から引用
桜ヶ丘学園高校のスリッパ。右は如月古都の上履き
※登場人物に半そでTシャツを着ている人物が複数登場することから、季節は夏と思われる。
※SHIGERUは店主の名前に因むものだろうか。店主は古都の祖父であることが後に明かされる。

※酔客3人組が話題にしていたカラオケ店名は「ソナタ」で、後の伏線。
※晃介の名刺には「株式会社大鳥家具企画広報部係長」「東京都中央区」等とある。
※晃介のスリッパには「桜ケ丘学園高校」と名入れがある。東京都北区には私立「桜丘(さくらがおか)高等学校」があり、スカートにタータンチェック柄と無地柄の設定がある等は本作の制服描写に似る。
桜丘高等学校ホームページから引用
https://sakuragaoka.ac.jp/schoollife/uniform/


見逃せないディティール

細部に答えが隠されているのは、本作品の特徴なのだろうか。例えば、古都の発言からは、現在の古都と美也は同学年ということまでは分かるが、同級生であるとまでは分からない。晃介が入ってゆく教室に「1-A」と表示され、古都の上履きにも「1-A」と書かれているディティールを重ね合わせて、はじめて二人がクラスメイトだと分かる。この様に断片的な情報を配置する手法は、綿密な作品構成力を要するだろう。読者としては、明示されない答えを、自分の自由な解釈で探すという楽しみがあることになり、作品に奥深さを与えている。
このことはつまり、今後の作品の進むべき方向性が、既に作品中で示されている可能性を示唆しているといえないだろうか。


秘密とは何か


本作品の副題はフランス語だが、 邦訳すると「ファム・ファタールの大きな秘密」となるとのことだ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A8%98%E3%81%AE%E5%8F%8B%E9%81%94)。「大きな秘密」というのが気になる。物語が進行するにつれ明らかになるのであろうこの秘密とは何であるのかを、あれこれと考えてみるのもこの作品を楽しむ一つのポイントだろう。
そこで、筆者なりに妄想した古都ちゃんの秘密だが。
「娘の友達」講談社(萩原あさ美著) 第1話「出会い」から引用
美也を介して晃介との接点が過去にあった古都
古都は機能不全の家庭に育ち、ほとんど父親はいないも同然。小学生の時に、同級の美也とその父・晃介と映画を見に行った時から既に、古都にとって優しい晃介は憧れの存在だった。
それぞれ別の中学に進学したが、古都は美也と同じ高校を受験。実は美也を通じて晃介との接点を復活できるのではないかとの思惑があったのだ。

現実は古都にとって好都合に推移し、晃介の妻は、他界してしまった。不登校になった美也がいなくなれば、晃介は古都だけのものになる。その実現のために、古都は晃介を篭絡し、社会的に逸脱した行動を取らせて美也が離反するように画策する。不登校で晃介を苦しませた美也が自分から出ていくよう謀ることに、躊躇する必要はない。晃介にとって、本当に必要なのは美也でなく自分だという歪んだ自負が古都にはある。
当然、SHIGERUで、自分を酔客から救った(または救わせた)中年男性が、晃介その人であることは、古都は初めから認識していた。だからこそ、「お礼させてください」と、次につながる借りを作ろうとしたのだ。
来店した中年が晃介だと
初めから分かっていたなら、なぜ、もっと早いテンポで古都はアプローチしなかったのか? 
読者はそう思うかもしれない。しかし、いきなりそれだと、

「きーちゃんです!」
「あ、きーちゃん!?

「LINE交換してください」
「...へ!?」
「で、水族館に行ってその後ホテル」
「大人をからかうのも、いい加減にしなさい


で終わり。失敗。


「娘の友達」第1巻講談社(萩原あさ美著) 第1話「出会い」から引用
LINEアカウント交換を晃介に申し出る古都

「お礼をさせてください」という細い糸からたぐりよせて、不登校の美也という共通の悩みを設定。「お父さんの力になりたい」という殺し文句でLineのアカウントをゲット。以後、着々と本丸に迫る古都。
仮にSHIGERUで晃介との再会がなかったとしても、美也とは仲良しなんだから、高校に通う3年間をかけてチャンスをうかがえばよかったわけ。美也を出しに晃介の自宅を訪問するプランは、晃介とSHIGERUで再会する前に、予め練られていた可能性すらある。何しろ古都が糸口さえ掴めば、晃介の陥落は時間の問題でしかない。

...ここまで酷い話にはなってほしくないけどね。ほんとはハッピーエンドにしてほしいよ。

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