Translate

最近の人気投稿

ラベル 19話 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 19話 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020/03/08

【娘の友達】第33話「タイムカプセル」-古都はなぜラブレターを「見つけさせた」のか

あらすじ

市川晃介は、如月古都の撮った写真を見る。それぞれの写真には、晃介を始めとした、古都の日常の周辺が収められている。写真を通じて、古都との繋がりに感じ入る晃介。古都の母は、古都と晃介との関係についての確証を得て、彼女に詰問する。古都からのメールを見た晃介は、彼女の元に走る。


走る晃介


古都が「写〇ンです」に収めていたものは果たして何か。そこに「「ファム・ファタールの大きな秘密」が隠されているのか...という引きで終わった前回。しかしフィルムの内容は、SHIGERUでの晃介のスナップを始めとする、いかにも恋する乙女が撮りそうな写真。スリリングなストーリー展開に比べると、拍子抜けするほど平和な内容。古都が晃介との写真を「宝物のタイムカプセル」と称したのは、偽りではなかったようだ。 二人とも月という共通の被写体を撮っていたことに気づいた晃介は、「呼吸ができる気がした」と独白する。因縁めいた出来事で通じ合う心を晃介に感じさせることは、この後、古都の元に躊躇なく駆け付ける動機付けとして、確かに説得力はある。
しかし古都ちゃんファンの筆者にとっては、晃介が選んだ服を着て初々しくはにかむ彼女の写真の方が、はるかに魅力的で美しいエピソードだ。交際するようになってから初めて晃介宅を訪ねる特別な自分を写真に残し、思い出として「タイムカプセル」にそっとしまい込む。胸がキュンキュンするわ。


よく読み込むと、↑このように美也と古都の言葉には相互に矛盾があるのだが...あまり深く追及せず、「交際後、初めて」という意味に解釈しておこう♪
「娘の友達」講談社(萩原あさ美著)
第19話「軽はずみな同意」から引用

なぜ手紙は見つかったのか
一方、古都は、自分が破り捨てた晃介宛ての手紙の内容が母に知られ、咎められる。「美也」、「晃介」、「水族館」という、母にとっては心当たりのあるキーワードが並べられた文面を突き付けられた古都は、言葉を失う。そりゃー「二人っきりになったら」晃介が怯み、「結局何もしてくれなくて」などと書いた手紙が見つかったら、普通の関係の母娘でも、大いに揉めるだろう。いわんや如月家においてをや。


「娘の友達」講談社(萩原あさ美著)第17話「迂闊な半券」から引用

何もしてくれない晃介の図


機能不全の家庭では、お互いの人格の境界があいまいで、プライバシーが保たれない。家族から離れることは見放すことで、許されざる行いだ。というわけで、古都ママのルールに触れた古都は家を飛び出す。
だが、ちょっと待ってほしい。古都は自室で手紙を破った後に、紙吹雪のように上に放り投げている(第29話「破棄」)。この後で紙切れを拾い集めたのだとしても、母親が容易に見つけられるように自室に留め置いたのは、古都の過失だろう。水族館での晃介とのデートを尾行してくるような母で(第15話「お願い」)、決して秘密を作ることは許さない人格であることを考えれば、いかにも軽率ではないか。錯誤行為には無意識が関与しているというのはフロイト以来の古典的な考え方で、古都にも無意識にそうさせた何かがあったと見るべきだろう。
手紙を破り捨てたのは、晃介とのLINEを通じての連絡が取れなくなった時期にあたる。彼との関係が続かないなら、彼を通じて「ドキドキ」する、つまりトラブルすれすれの状況もなくなってしまう。
おそらく機能不全家族の如月家においては、トラブルが頻発し、家族間のイザコザが普通のことなのだろう。その中で古都の恋愛もゆがんだものとなっており、日常にトラブルを持ち込んでしまう。晃介をカラオケ、新幹線での逃避行、ホテル利用に巻き込んだのは、古都が母の支配する日常から逃れたいという理由だけではない。人をトラブルに巻き込むことに躊躇がなく、だからそれは一途にも見え、古都自身もそれを恋愛感情の発露だと信じている。だが、巻き込むことで晃介からパワーを得る古都に、常人は、その性格にある種の歪みを感じる。本作品が、美しくも底知れない不穏さを感じさせる理由の一端は、そこにある。
さて、晃介を失ってしまっては、古都は母親に支配されるだけの日々にもどってしまう。だが母が手紙を見たなら、きっと晃介と自分との関係を断とうとするだろう。必ずしも自分は母の支配下にいるばかりでないと示す反抗でもあり、晃介を再びトラブルに巻き込む触媒として母を利用するためでもあり、自分のために疲弊する晃介の姿を見て力を得るためでもある。...このようなはかりごとを無意識にやってのけるという、古都が本来的に持つ常人ばなれした恐ろしさに、筆者はゾクゾクするのだ。変態です、すみません。


「普通の再会」はあるのか

古都からのメッセージが着信しても、それを読むことは頑なに拒んできた晃介。だが古都の撮った写真を見て、古都の想いを信じるようになった-というか、もうそこにしか救いがないというのが本当なのだが-晃介は、メッセージを読み、古都の元へと街を走る。
二人の再会は感動を呼ぶのか、それとも戦慄させる不穏なものとなるのか。
ドキドキしたいですよね!?


Twitter 

2020/03/01

『娘の友達』 第31話「娘の家出」 大の大人が半狂乱で仕事を忘れて娘を探す。これは美談なのか、それとも

あらすじ

市川晃介は、家を出た娘・市川美也を追い、渋谷を翌朝まで探し回り、大切な社用を忘れてしまう。美也はボーイフレンド(?)の三崎正一郎を頼って逢う。


家を出た美也は正一郎を頼って落ち合う。かつて晃介が古都と現実逃避したように。
晃介にはLINEで「友達の家にいるので心配しないでください」と美也からのテキストが入る。友達とは正一郎だろうか。それは晃介がいちばん心配していることなのだが。美也もそれを十分に知りながら、こんなメッセージを寄越したのかもしれない。娘の心配など考えずに晃介は如月古都と逢っているのだから、娘の自分が誰かとどこかにいても、貴方が心配するようなことではないでしょう、と。フツーの言葉のようでいて、晃介のような娘べったりの親父には突き刺さる刃だね。
考えてみれば、正一郎もまた「娘の友達」であるわけで、このタイトルが古都だけを意味するものでないとすれば、三崎はストーリーを大きく動かすもう一人のプレーヤーになるのかもしれない。第19話「軽はずみな同意」で、三崎は「あの如月とかいう女 なんかうさん臭いよな」と、古都を評する描写がある。この後、古都が学校で禁止されているバイトに就いていることを彼が知っていると明らかになるが、「うさん臭い」とはそのことを指しているのか、それとも古都のパーソナリティ上の問題を既に喝破していたのか。第27話「変と普通」では、晃介と古都の交際を確信した美也の前で動揺する晃介とは対照的に、古都の高校一年生とは思えない堂々とした対応ぶりを、彼は見ることになる。三崎の印象はどんなものだったたろうか。
娘の家出に対する晃介の動転ぶりは、見るに堪えず、痛々しい。まるで娘の家出は自分の失態であり、それを取り返そうとするかのように、半狂乱になって美也を探し回り、結果として自分の社用を忘れると言う、本当の失態を演じてしまう。晃介は娘と自分の人格の境界を見失っているようで、これもまたアダルトチルドレンとしての性質を表すものでないか。
家出して堕落するとしてもそれもまた娘の人生だ、俺だけの責任でもないし、しゃあない、などと開き直ることは、晃介にはできない(筆者ならそうするが)。警察に相談するということも思いつかないようだ。娘は親の元で、進むべき道を歩まねばならないのだ。彼もまた「こうでなければならない」と、意識しないままに美也を束縛しようとしている。
市川家の平和は、古都だけが乱したのではない。