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2020/03/20

【娘の友達】第35話「嗅がれる男」-「月」はなぜ見ている?(つづく)

あらすじ

市川晃介から返された写真に見入る如月古都。彼は古都を自宅近くまで送る。帰途、スマホに娘・美也からのメッセージが着信した直後に古都の母に行き会い、言葉を交わす...

はかりごとが大当たり

自分と晃介の関係が母に知られたことを、古都は敢えて彼に知らせていない。これは古都が無意識に、晃介を更なるトラブルに巻き込もうとしているためだー前第34話について、筆者はそう指摘した
早速、古都様の冴えた謀が大当たり。無警戒な晃介は、古都を自宅近くまで送り届けるという軽率な行動を取り、古都ママに遭遇してしまう。
...まあ、古都からの警告がなくても、彼女の自宅付近の住宅街を、二人連れでウロウロしている時点で、晃介さんには秘密を守るセンスが丸っきりないことが分かってしまうよねえ。娘・美也は、父と古都との関係を早々に勘付いていたし、第25話では、晃介の部下が、如月とは晃介の「彼女」のことと喝破し、彼を「わかりやすい」と評していたし。

「娘の友達」講談社(萩原あさ美著)第25話「それぞれの夕食」から引用

そんな、「わかりやすい」晃介を、古都様はお好みなのだろう。もちろん、いじりやすいから、だろうが。
筆者にとって意外だったのは、古都ママは今話で初めて、古都がラブレターを宛てた晃介とは、美也パパのことだと認識したようであること。古都に関する情報収集は万端の毒ママと思っていたのだが。それだけに、まだトボケるチャンスがあったのに、古都ママの問いに何の疑問も抱かず、率直に自分の名前を告げる晃介がイタい。なんでこの人が、勘の良い美也ちゃんの父親なのか(笑)。
可哀そうだが、今後は古都ママから監視されるとか、証拠をつかまれて学校・警察・職場・児童相談所に通報されるとか、晃介にとって最悪の展開もありうる事態。だが彼はまだそれに気づかない。
それもこれも、古都様の与えたもうた試練であれば、乗り越えてみせよ、晃介。

「月」とは何?

晃介から返された写真のうち、古都が見入る写真は二葉。SHIGERUでの晃介とのツーショットと、月の写真だ。ツーショットの方は理解できるとして、月の写真の方は、何故なのか。いーじゃん、水族館の半券の写真でも、新聞読んでる晃介の写真でも。なぜ月?
晃介にとって月とは、自分と古都の共通の被写体であり、二人が同様の写真を撮っていたというその偶然性から、古都との因縁を確認する媒介であった(第33話)。しかし今話では、古都は自分と晃介の二人がそれぞれに同様の月の写真を撮っていた点に気づき、感動した...と示すような描写はない。そこで著者の意図は、月そのものを象徴的に示すことにあったと仮定して、考えてみたい。
月が二人の間に介在する描写は、作品中何度か描かれている。初出は、第21話「同じ月はみている」だろう。


「娘の友達」講談社(萩原あさ美著)第21話「同じ月は見ている」から引用

古都と晃介がそれぞれの自宅で、偶然に同じ月を見ている場面は詩的で美しく、筆者は好きだ。だがそれは表面的な理解なのかもしれない。
同じ月「を」見ている、ではなく、同じ月「は」見ているというタイトルなのは、なぜだろう。二人の行動からは、「同じ月を見ている」の方が、自然でしっくりくる。ところが著者は、月が二人を見ていると言うのだ。
月とは、二人の宿命的な関係性の象徴であると、筆者は解したい。人が月を見ることは、人の意思でやめることができる。だが二人を照射する月は、どこに隠れても逃れようがない。惹かれ合う二人の関係性の背後には、同じアダルトチルドレンという宿命があり、それが容易に拭い去ることができないのと同じように。
第21話の月は、古都が市川邸を訪ねるという、ビッグイベントを従えている。
第27話では、親友であり晃介の娘でもある美也に晃介との関係が知られた後、古都は晃介に尋ねている。

「今日の月って...
...綺麗ですよね」

彼女の問いは、美也に知られたとしても、二人の宿命性に変わりはないとの隠喩として理解できる。だから古都は「良かった」と、笑顔で晃介の答えを喜ぶ。古都は翌日から、晃介にあててLINEのメッセージ送信を再開している。
第33話では、第27話以降連絡を絶っている晃介に、月が見えないとの趣旨のメッセージを送信している。続く第34話で晃介と再会した古都だが、まだ月が見えないタイミングで、態度はよそよそしい。今第35話で写真上の月を見てから、徐々に古都の態度はほぐれていく。すると、夜空に細く上弦の月が光るのだ。
月が二人の宿命を照らし出す
象徴であることを、古都は正しく認識しているが、晃介は分かっていない。もしかすると、古都ちゃんが自分の名前の一部に「月」を持っているというのも、著者の意図するところなのかも。古都は月は天意であり必然であると理解しているが、晃介は天体の運行がもたらす偶然としか分からない。だから、古都には、このタイミングで月の写真が現れたという天啓が重要で、晃介には二人が同じような月の写真を撮ったという偶然が重要だということになる。もー月の写真の解釈からして、二人の間には天地ほどの違いがあるらしい。
古都が重視する文脈を凡夫の晃介が理解できないというのは、作品を通して描かれるモチーフで、古都様の神秘性を高めている。だよね?
(つづく)

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2020/03/01

『娘の友達』 第31話「娘の家出」 大の大人が半狂乱で仕事を忘れて娘を探す。これは美談なのか、それとも

あらすじ

市川晃介は、家を出た娘・市川美也を追い、渋谷を翌朝まで探し回り、大切な社用を忘れてしまう。美也はボーイフレンド(?)の三崎正一郎を頼って逢う。


家を出た美也は正一郎を頼って落ち合う。かつて晃介が古都と現実逃避したように。
晃介にはLINEで「友達の家にいるので心配しないでください」と美也からのテキストが入る。友達とは正一郎だろうか。それは晃介がいちばん心配していることなのだが。美也もそれを十分に知りながら、こんなメッセージを寄越したのかもしれない。娘の心配など考えずに晃介は如月古都と逢っているのだから、娘の自分が誰かとどこかにいても、貴方が心配するようなことではないでしょう、と。フツーの言葉のようでいて、晃介のような娘べったりの親父には突き刺さる刃だね。
考えてみれば、正一郎もまた「娘の友達」であるわけで、このタイトルが古都だけを意味するものでないとすれば、三崎はストーリーを大きく動かすもう一人のプレーヤーになるのかもしれない。第19話「軽はずみな同意」で、三崎は「あの如月とかいう女 なんかうさん臭いよな」と、古都を評する描写がある。この後、古都が学校で禁止されているバイトに就いていることを彼が知っていると明らかになるが、「うさん臭い」とはそのことを指しているのか、それとも古都のパーソナリティ上の問題を既に喝破していたのか。第27話「変と普通」では、晃介と古都の交際を確信した美也の前で動揺する晃介とは対照的に、古都の高校一年生とは思えない堂々とした対応ぶりを、彼は見ることになる。三崎の印象はどんなものだったたろうか。
娘の家出に対する晃介の動転ぶりは、見るに堪えず、痛々しい。まるで娘の家出は自分の失態であり、それを取り返そうとするかのように、半狂乱になって美也を探し回り、結果として自分の社用を忘れると言う、本当の失態を演じてしまう。晃介は娘と自分の人格の境界を見失っているようで、これもまたアダルトチルドレンとしての性質を表すものでないか。
家出して堕落するとしてもそれもまた娘の人生だ、俺だけの責任でもないし、しゃあない、などと開き直ることは、晃介にはできない(筆者ならそうするが)。警察に相談するということも思いつかないようだ。娘は親の元で、進むべき道を歩まねばならないのだ。彼もまた「こうでなければならない」と、意識しないままに美也を束縛しようとしている。
市川家の平和は、古都だけが乱したのではない。

2020/02/29

【娘の友達】第27話「変と普通」-(仮置き)修羅場にひるまぬ古都さまがカッコ良すぎる件

あらすじ

市川晃介の部下と美也の友人・三崎正一郎も居合わせる中、如月古都がバイトする店先で、晃介と娘・美也の諍いは続いていた。そこへ店を出た古都が現れると、美也と堂々と向き合い、晃介を庇う。翌日、部下と娘からの信用を同時に損ね、古都をも失う結果に消沈する晃介。 






(以下、当ブログ「【娘の友達】第35話『嗅がれる男』-『月』はなぜ見ている?」から引用)
月とは、二人の宿命的な関係性の象徴であると、筆者は解したい。人が月を見ることは、人の意思でやめることができる。だが二人を照射する月は、どこに隠れても逃れようがない。惹かれ合う二人の関係性の背後には、同じアダルトチルドレンという宿命があり、それが容易に拭い去ることができないのと同じように。
第21話の月は、古都が市川邸を訪ねるという、ビッグイベントを従えている。


「娘の友達」講談社(萩原あさ美著)第21話「同じ月は見ている」から引用

第27話では、親友であり晃介の娘でもある美也に晃介との関係が知られた後、古都は晃介に尋ねている。

「今日の月って...
...綺麗ですよね」

彼女の問いは、美也に知られたとしても、二人の宿命性に変わりはないとの隠喩として理解できる。だから古都は「良かった」と、笑顔で晃介の答えを喜ぶ。古都は翌日から、晃介にあててLINEのメッセージ送信を再開している。

月が二人の宿命を照らし出す象徴であることを、古都は正しく認識しているが、晃介は分かっていない。

(話数の順に表示する目的で、執筆日時を操作しています。実際の執筆は2020年3月22日です。)

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