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2020/03/14

【娘の友達】第34話「再会」-再会を喜ばない古都は、秘密を作る...

あらすじ

市川晃介と如月古都は再会を果たす。古都のスマホに母から架電があるが、晃介はそれを切り、古都を抱きしめる。

無感動の再会

晃介に何度もLINEのメッセージしても無視され、挙句はその晃介との関係が母に知れ、家を飛び出してきた古都さま。さぞ心細かろう、晃介が現れたら再会を喜び、きっと泣いて抱き付く...とか思った読者はいなかっただろうか? ところが 古都は意外過ぎるほど無表情で冷静に晃介を迎える。彼女から晃介に近寄ることもなく、いぶかしむような表情さえみせる。これはどういうことだろう。考えてみたい。


逆転

古都の意表を突く言動にその真意を測りかね、晃介が目を見開いて一瞬絶句するのが、このマンガの黄金パターン。この怖さを、読者は楽しみにしている(よね?)。今回は古都が、晃介の言葉に俯き、暫く沈黙し考えるような表情が繰り返される。こういう古都の描写は本作品では珍しく、古都の同様な表情は、晃介に「迷惑なんだよ」と言われたとき(第23話「ひとひと」)ぐらいじゃないだろうか。

「娘の友達」講談社(萩原あさ美)第23話「ひとひと」から引用

このときと同様、
古都は、恐れている。晃介の真意を測りかねている。

「どうして
今日は来てくれたんですか」
(私を捨てたのに)

古都の問いに、晃介は古都を全然ちゃんと見れてなかった」と謝るが、彼女にとっては唐突な言葉で、納得した風でもない。晃介に、再び自分を頼る何らかの事情があったことを見透かす風でもある。


愛される恐怖

第23話以来、古都は晃介の好意を失ったと感じている。父が自分と母を捨てたように、晃介「も」やがて自分を捨てるに違いないと考えるのは、トラウマを抱えながら生きるアダルトチルドレン(AC)である古都にとっては、自然なことなのだろう。彼を愛してはいるが、信じ過ぎては、その時が辛すぎる。現に一度、彼は一度自分を捨てようとしたではないか。晃介の積極的な態度は、彼がやがて自分を捨てる時の痛みを倍加する。だから彼女は、それを喜ぶどころか、逡巡する。

※古都の自己肯定感の低さについては、「【娘の友達】第28話「ふりだし」-古都パパ登場! 性的虐待は無し...?」で考察しているので、併せてお読みくださいませ。

古都が晃介に執着するのは、彼がまともに古都と向き合わない大人だからだ。破局が予定されているからだ。ちゃんと見てくれない程度でいいのに、そうすると言う晃介の言葉を、古都は正しく喜べない。

「娘の友達」講談社(萩原あさ美著) 
第24話「穴のあいたクッキー生地」から引用
「たぶん その人
私のこと好きじゃないから」
「その人も...かな」

第24話「穴のあいたクッキー生地」で古都は、晃介をこう評している。仮に、前話での晃介との諍いがなかったとしても、これが古都の晃介に対する想いだろう。
古都は晃介に、自分をストレスのはけ口とすることを提案し、許してきた。それは彼女が家庭で母から強いられてきた役割と同様で、人と密に付き合おうとするとき、ACの彼女はほかに手段が思いつかない。自分の魅力や価値とは、その程度のものとしか認識できていない。

「娘の友達」講談社(萩原あさ美著) 
第4話「108号室の温度」から引用。

「好きです」と告白した男子生徒を、私そういうの よくわからなくて」と断っているのは、古都の方便というだけではないだろう(第20話「モテそうですよね」)。自分は普通のハッピーな恋愛はできないし、するべきでないと、自分を低く認識しているのではないか。そう考えると、仔犬と中年男を同列に並べ接近しようとする彼女の心に、少し近づける気がする。
ACとしてもがく彼女には、どのような幸せがありうるのだろうか。
※同様の考察として「おじさん」氏のアマゾンレビューが参考になる。


奇妙な会話

二人の会話が噛み合わない。
晃介は、しばらくLINEのメッセージすら無視していたのに、この日はなぜか古都のもとに駆け付けた。その本当の理由を答えていない。娘の美也が家出し、それがもとで社用を忘れる失態を演じてしまい、晃介にとって、家庭も仕事も今はドン底にある。古都だけがわずかに自分を理解し慰めてくれる存在であることを再認識し、走ってきたのだとは答えていない。
古都は猫の路地に「なんとなく」来て、晃介のスマホにメッセージを送り続けた。その理由を答えていない。この日、破棄したつもりだった手紙が母に見つかり、晃介との関係が知れて家を飛び出してきたのだとは、答えない。
二人はお互いに、破局的な状況にあることを、あえて語らない。それにお互いが気付きながら、それを咎めず、受け容れている。この後、すぐにも崩れる関係かもしれないが、それだけに今がすべてだから、それでいいというように。恋愛関係としては互いが秘密を持ち、刹那的で、健康とはいいがたい。だからこそ切なく、美しい。


ファム・ファタールのちょっとした秘密

(2020.03.16本段加筆)
まあ、家庭と仕事でうまくいかなくてメンヘラ寸前というのは、晃介個人に帰する事情としても。破棄した手紙を毒ママに見つかり、二人の関係が知れたという古都の失態は、古都だけの問題ではない。晃介に積極的に知らせ、警告すべきなのに、古都はそうしない。

代わりに古都が持ち出すのは、SHIGERUでバイトできなくなったという話。古都がひっきりなしにLINEを送ってきたのは、そのためだったかと、晃介は理解しただろう。
だが、古都ママに知れたという二人の危機の前では、そんなのどーでもいーっちゃどーでもいー話だ。大体、祖父のケガの軽快を口実に、母がバイトを辞めさせたというが、古都ママに見つかった手紙を見なさいよ。

喫茶店以外で会えるのは水族館の日以来ですね。」
(33話「タイムカプセル」)

そう書いてあるじゃん。おじいちゃんのケガの件がなくても、SHIGERUが晃介との接点であると毒ママに知れた以上、バイトを認めなくなるのは明らかなことで、そちらの方が重要な情報。
古都は一つのウソもつかずに、晃介に誤信を与え、本質的な危機の存在を隠ぺいすることに成功した。古都ママへの警戒を欠いた晃介は、そのうち古都ママにコテンパンにやられてしまうのか。
人をコントロールする術において、ウソをつけない性格の晃介とは、端から比べものにならないAC古都さま。無意識にだろうが、こういうことをやってのけるところが真骨頂。
晃介をトラブルに巻き込み、疲弊した彼からパワーを得る。トラブルで傷つく晃介に癒しを与えることで、自分の価値を確認する。この辺の話は、
第33話についてのブログに書いたから、これ以上は省く。
トラウマにのたうつAC古都ちゃんを愛することは、命がけの仕事になりかねない。フツーの人なら、手を引く。
だが筆者は、古都さまのそういうところが愛おしくてしょーがない。彼女も彼女なりに、「生きることに一生懸命」なのだ。晃介が忠実な仔犬なら、古都さまは奔放な子猫ちゃんだろうか。そういえば、初期の設定画にはそれぞれ犬と猫のマークみたいなのが添えられていたね。


因果は巡る

「お母さんは...
私がいないと
寂しくて死んじゃうんです」


母には自分が必要であることを主張してみせる古都。毒ママとACの共依存関係は一目瞭然。
しかし、かつてこの路地から新幹線で晃介とともに逃げたあの日、古都はこう言っていた(第7話「うるさいなぁ」)。

「お母さんが
うるさくて
...バカみたい
上辺ばっか気にして
ほんと
息がつまる...」


「良い子」と「悪い子」が共存する古都の内面。古都がこの場所でかつて、本当にやりたいことは何かと晃介に問うたように、晃介は彼女の本心を問う。あの日、古都が晃介のスマホの電源を切らせたように、晃介は古都の母からの着信を切るため、古都のスマホを取り上げる。
古都に駆け寄り、初めて自分から抱きしめる晃介(全裸の古都に迫られて抱きしめたことがあるけど、あんなのノーカウントだよねー)。それは、離れてしまった古都との距離を、再び、縮めるためでもあるだろう。

しっかし、晃介は今後、本当に古都の窮状を全て受け止めきれるのだろうか。あの日、逃げようと古都が言ったように。今更、児童相談所に行けと言うわけにもいくまい。
二人の関係を知った古都ママが黙っていないのは、目に見えている。社会的にも家庭的にも、へたすりゃ法的にも、危ない橋を渡り続けなければならない。どうする晃介。
次号もドキドキしたいですよね!?





https://t.co/70daQbBITW
— 市川晃介 (@ZdK9dyOsUjHnf5z) March 12, 2020


2020/02/29

【娘の友達】第28話「ふりだし」-古都パパ登場! 性的虐待は無し...?

あらすじ

如月古都の父母は、自宅リビングルームで寛ぐが、古都は門の脇で手持無沙汰。玄関で母がすがって止めるのも甲斐なく、父はまた家を出ていってしまう。泣き崩れる母の手を取る古都。市川晃介は、まだ美也が戻らない自宅に着くと、着信した古都からのメッセージを削除する。

古都ママの毒性

古都の抱える家庭の事情の一端が、また明らかになる。
古都の父は帰宅することはあっても、長くはいつかず、母以外の女性との交際があるらしい。如月邸は総二階の洋館で、坂道に面して建つ...こういうの、山の手っていうの?。家構えや身に着けているものなどから、例えば市川家などよりも如月家の家計は裕福である印象を受ける。従って古都パパは、愛人が囲えるだけの経済的余裕があるということらしい
古都ママは、古都パパの前では、明らかに、古都を疎んじている。第21話「同じ月は見ている」では、古都と母の次のような会話がある。

「日曜日 
久しぶりに
お父さんが帰ってくるのよ
もちろん
あなたは
お父さんと
一言も
話さないわよね?」


「娘の友達」講談社(萩原あさ美著)
第21話「同じ月は見ている」から引用

「うん...」
「あんな人と
話したら駄目よ
あんなのほんと
ろくでもない男
なんだから」

「もちろん」の一言から、「父と話すな」というのは古都ママが古都に課した恒常的なルールであり、それを念押ししたことが分かる。古都は古都パパが帰宅するたびに、古都ママに追い出されるのだろう。古都を話題にする夫に、古都ママがいら立つような描写もある。古都も古都パパも、古都ママは独占しなければ気が済まないようだ。
すがりつく古都ママを
古都パパが振り払い、再び家を出ていくと、彼女は人目をはばかることもなく、玄関の外に突っ伏して、声を上げて号泣する。年甲斐もなく、泣き声で母を呼ぶ子の様に。母親としての人格が未熟であることが窺われる。

「あなたは
本当によく出来た
良い子になったわ」

なだめる古都を、古都ママはそう誉める。自分が旦那とお茶を飲む間は外で待ち、自分が傷ついたときは慰めてくれる娘。古都ママが古都の価値を認めるのは、自分の都合の良いように動いてくれるときなのだ。逆に、古都が独自の人格で、自分の知らない行動をとることを、彼女は許していない。
やはり十全に機能している家庭ではない。


待つ古都
古都が門の外で待っていたのはなぜだろうか。こんなメンドくさい母親にかかわりたくないとすれば、もっと距離をとり、近所の公園とかコンビニにでも行って、時間をつぶせばよいではないか。
しかし古都は、父に傷つく母を、すぐに慰められる距離で待機した。古都ママの身勝手な誉め言葉に、一瞬、反抗の表情を見せるが、結局彼女の手に自分の手を重ねる。
晃介を子犬に例える古都には、傷つき泣きわめく母もまた、そのように見えるのだろう。この母には、娘の自分が必要なのだ、と。母と共依存の関係にある古都が描写されている。


「娘の友達」講談社(萩原あさ美著) 第6話「ゲームしましょうか」から引用

古都は、母親の抱いた負の感情を吸収する役割を家庭で負わされてきた。そこまで尽くしても、古都ママからは、古都パパに次ぐ序列でしか遇されない。古都パパがいれば、古都は不要なのだ。それが自分の価値であると思わされてきた。古都の自己肯定感の低さの理由は、そこにあるだろう。
晃介の負の感情を処理するためにスキンシップを多用するのも、
母を落ち着かせるために身に付けたやり方を、そのまま晃介に向けているのではないか。自分にはそうするぐらいしかできないし、それが自分の価値であり仕事だと、無意識に、反射的に、体が動いてしまうのではないか。共依存の傾向は、古都と晃介の関係にもあるとみなければならないだろう。それが古都にとっての愛のカタチとすれば、やるせない。

初登場の父親
古都パパの心は、すでに古都ママを離れている。帰宅しても妻との会話に積極性が感じられない。
表情がほとんど窺えず、ミステリアスな印象の古都パパ。古都ママの言いつけを守ってか、古都は父親と一言も言葉を交わさない。

「お前は
小さいころから
何も変わらないな...」

古都パパが彼女に向けた言葉は、何を意味するのだろう。古都が幼少の頃から、古都ママの言いつけを従順に守り、古都パパとのコミュニケーションを取ろうとしないということなのだろうか。古都の表情は素っ気なく、感情が読みとれない。
古都パパは、恐らく、妻の下から逃げ出したのだろう。家庭に残した古都が気がかりでたまに帰宅するが、古都がいなければすぐに立ち去ろうとする。古都ママも、夫の帰宅が古都目当てと何となく分かっているから、彼女に嫉妬し、疎んじる。
古都は、家庭を捨てた父親の想いが受け容れられないのだろうか。自分にだけ、毒ママを押し付けやがって、このやろー、みたいな。だから白けた表情なのかな。

秘密を妄想(ハズれっぽい、良かった♪)
サブタイトルの"L'un des grands secrets d'une femme fatale." (ファム・ファタールの大きな秘密)とは何であるかについて、読者はあれことれ憶測を広げずにはいられない。第1話についてのブログでは、「古都は初めから晃介狙い」仮説を書いた。
実は、まともな商業誌連載で陰惨なハナシにはしないだろうと思いつつも、筆者が心配していたのが、父親からの性的虐待。古都ママみたいな女性だと、離婚歴の一回ぐらいあるかもしれない。古都は前夫との間の子だったりすれば、夫が妻の連れ子にチョッカイ出すというのも、あるのではないかと。で、古都ママには「秘密」ということで。ナボコフの「ロリータ」みたいに。
だってねー、あれだけスリスリ、くんくん、濃密なスキンシップで晃介を逃げられなくするんだから、すでに男を知っていると見ても不自然ではないよね。古都ちゃんの、真っすぐなのに歪みが見える性格を説明するにも、説得力がある。
しかしながら、第28話で父を見る古都ちゃんの表情を見ると、嫌悪とか困惑とかの感情がうかがえない。
だから28話以降は、ちょっとだけ安心して物語を読み進めている。

(話数の順に表示する目的で、ブログに標示される執筆日時を操作しています。実際の執筆は2020年3月17日です。)

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